私はフランスの男性でした。
この記憶は、私にとって最も大切な記憶です。
8歳の時「髪の短い綺麗なお姉さん」に会いました。
この「お姉さん」が、あのジャンヌ・ダルクだったんです。
少年の私は、彼女が戦場で戦っているなんて、想像できませんでした。
あの優しい笑顔のお姉さんが、と信じられませんでした。
火刑にされると聞かされて、ありえない、と思って、刑場へ行きました。
現代の映画などでは、彼女は炎の中で苦しんで死んでいったように描かれていますが、違います。
最初は藁のようなものが山積みにされていて、中に彼女がいる、と教えられました。
私は、別人ではないか、と思いました。
火が付けられても、燃え上がらなかったんです。
しばらくして、処刑人が藁を外しました。
取り替えるつもりだったのか、それは分かりませんでした。
中には、確かに彼女がいました。
けれど、眠っているように安らかな表情で、息が絶えていました。
その表情は、8歳の時に見た彼女と変わっていませんでした。
私は、彼女の死後、大人になって戦いました。
死を恐れる気持ちはありませんでした。
大人の男になった私は「あの少女が戦ったのだ」と思えば怖いなんて思いませんでした。
私の中の聖女ジャンヌ・ダルクは勇敢な女性ではなくて、生涯にわたって忘れられなかった初恋の女性です。